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サインと署名の話

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サインと署名の話

いつも全く同じ署名をする日本人はほとんどいない

わたしたちはだれでも、子供の時から何千回、何万回と自分の名前を書いています。だから、各自の署名は、それぞれ常に同じ形の筆跡であってもいいと思うのですが、いつ書いても全く同じ形の署名をする人は日本ではとても少ないです。

注意してみれば、だれの署名でも、書くたびに違った形をしています。丁寧に楷書で書く時もあれば、すらすらと行書で書く時もあります。また、乱暴に略して書く時もあり、いつも、必ず同じ形で署名を書く人はほとんどいないといっていいでしょう。

これは、日常生活において、署名することがあまりに多いために、ついつい書き方もぞんざいになって、その都度違った形の署名を書いてしまうのかもしれません。それから、署名について、常に同じ形の署名を書かなければならないという教育は受けていないし、親からも先生からもそんなことは習慣づけられていせいでもあるでしょう。

わたしたちは、署名を書くときに普通の字を書く時と同じ程度の注意や関心しか払っていないことは事実です。

日本では署名は印鑑のアクセサリー

それというのも、日常生活において、署名は大切なことのようでありながら、実はあまり重要視されていないからです。例えば、銀行の窓口で貯金の払い戻しを請求するときでも、借金を他人に申し込むときでも、家や土地を登記するときでも、それぞれの書類に必ず署名をしなければならないことになってはいますが、いずれの場合でも、そのとき、署名の下に押す印鑑の方が署名よりもはるかに重要視されています。

署名は印鑑のアクセサリー

実際に、銀行に行って自分の貯金通帳から自分の預金を払い戻しするときに、払戻請求書に自分の署名をしただけでは、銀行は払戻をしてくれません。ところが、本人でなくても、銀行に届け出てある印鑑と同じ印鑑が請求書に押してあれば、それがたとえ100均で販売している三文判であったとしても、すぐに預金を払い戻ししてくれるのです。

このように、100円の三文判よりも価値がないことから、署名は印鑑を押すときの付属物、アクセサリーのような扱いになっていることが分かります。

その点、欧米諸国においては、日本のような印鑑がないので、日常生活において、署名は極めて重要な役目を果たしています。貯金の払い戻しも、小切手の振出も、すべて個人の責任を示すものとして、サインは重要視されています。

ではなぜ、欧米諸国ではそのようにサインが重要視され、日本では同じ性質の署名が印鑑のアクセサリー扱いをされているのでしょうか。

文字に美と芸術性を見出した書道文化の影響

日本では、署名ばかりではなく字を書く場合に、まず、上手さ、美しさを表現するように要求されます。日本人なら多くの人が、小学生の時から上手な手本を見せられて、それに似せて字を書く練習をさせられます。そのため、上手にかくことだけが字を書く時の関心事で、自己流に書きたいように書くことは許されていません。

書道・習字が署名にもたらす影響

だから、いつでも同じ形の筆跡を書くことや同じ形の署名をするように指導をされていないのです。このことは、字を書くことに美の追求、芸術性を見つけた日本古来の書道が私たちの習字の在り方の基本になっているからだと思います。

ところが、欧米諸国には日本のような書道というものがありません。字を書くことはあくまでも実用のためであり、立派に書けとか、上手な字、きれいな字を書けといったことは全く要求されないのです。

欧米諸国では実用性重視、自己流で個性と恒常性ある文字

本来、文字とは自分の思考をまとめて自分の意思を他人に伝達する記号なのだから、その利便性や実用性から考えて、自分が最も書きやすい書き方で文字を書けばよいのです。だから欧米ではサインの実用性、重要性を考えて常に同じ形のサインを書く練習をしているのです。

いつもきまって同じ形のサインをするためには、自分がもっとも書きやすい書き方で書くことになります。だから自己流で、自分独自の書き方をします。しかし、それによって、いつ書いても、角度、形、大きさまでがほとんど同じようなサインを欧米人たちは書くことが出来るのです。

したがって、欧米人のサインは、いつ書いても形が変わらない恒常性と、他人には容易に真似が出来ない個性を持っているので、他人がたとえ自分のサインの形をまねしても、すぐに見分けられるです。だから、他人が見てもサインを比べれば、本人が書いたものかどうかがすぐに分かるのです。

書くたびに署名の形が違い、書いた本人でも、自分が書いた署名が、他人が代書したものか分からないことがあるような、私たち日本人の署名と欧米人のサインとは、このように大きく異なるのです。

サインに使う万年筆

ひと昔前までは、欧米人たちは万年筆の貸借は絶対にしませんでした。それは、自己流にサインをする道具として、自分の万年筆を大切にしているからです。

参考文献:時の法令 1961年

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