何度サインしても不変であるべきもの
サイン(署名)とは、自署された自分の姓名とのことをいいます。署名は、ほとんどの国において、書類などの作成者をあらわしますが、法律的な面から見れば、最も重大な関係を有し、権利または義務の発生、消滅、変更などを記載する文書には必ず署名を必要とし、署名がない場合は全く効力を生じないことになっています。
ただ、日本においては、古来、ある文書は署名よりもむしろ捺印をもって重要なものとし、捺印がないときは署名があってもその効力を生じないと同時に、捺印さえあれば記名、署名がなくても効力を生じるという慣習があり、今日においても、通常、署名及び捺印を必要とするように思えて、実は、法律上は重要な書類の作成に捺印を要件としていない場合が多かったりします。
例えば、手形、貨物引換証(かぶつひきかえしょう) 、倉荷証券(くらにしょうけん)、会社の定款などの作成においては捺印を必要としません。
署名は、法律上の文書に対して最も重要な役目を成すものであり、また外交上、社交上、事務所の文書に対しても責任の所在を明らかにし、その文書を真に意義あるものにするため、署名に際しては十分の注意が必要です。
単に自分の姓名を自署すれば足るくらいに考え、筆の走るに任せ、時には文字の書き方を変えたり、極端に大小長短があるという書き方は、署名として最も避けるべきことです。
所有主を示すために書籍などに書く姓名ならともかく、日常頻繁に取扱う重要証書類に使う署名が適当だと、真偽を疑われることになり、ひいては、関係者が迷惑を被ることになりかねません。
サイン(署名)として一番大切なことは、署名全体の形が一定であることです。
署名に用いられる文字の書き方、文字と文字の間隔など、すべて、署名の形を構成するものは一定にし、何度署名してもその形は常に不変、あたかも同一の型にて造りだされたかのようでなければなりません。
日本語のサインの書き方
日本人が書く日本語(漢字・ひらがな・カタカナ)は姓を上に、名を下に書くことはいうまでもありません。
日本語の署名においても、文字の形態、書体から見て不自然ではない程度のデザインは問題ありません。姓を名に比べて大きく、あるいはそれとは反対に、名の方を姓に比べて大きく書くとか、文字と文字との間隔を調節するとか、線を特に太くあるいは細く、あるいは長く書くとか、文字の多少の傾斜をつけるとか、あるいは、ある文字の一部分を借りて他の文字の一部分を補完するなどのテクニックは日本語の署名によくみられます。
漢字の署名については、花押(かおう)についても書いておく必要があります。花押とは、自分の名、特に名乗りを一定の字形にして証明にするものをいい、昔、規則正しい文書を作成する際に、自名の下に書かれたものです。今日においても、まれに花押を使う人がいます。
日本語のサインにおいても、花押のような体裁にとらわれず、姓または名のみを書いて、姓名によっては姓名の一部または姓名いずれか一方を書き、認印の代わりに、あるいは署名の略式版のようにして使うことは日常目撃しますが、これもイニシャルズ(姓と名のイニシャルのみを略式英字署名:メモや消印、追伸の後などに用いる)同様に形が一定であることを必要とします。
参考文献:署名の仕方